リーマンショック

ユニテックシステム株式会社 取締役営業本部長
浜田 親弘 氏

人材ビジネス総合管理パッケージの開発・販売を行うユニテックシステム。同社の浜田親弘取締役は、営業本部長として日々、全国の多くの人材ビジネス会社と接している。リーマン・ショック当時も、大手から中小まで、人材ビジネス各社の生き残りをかけた闘い、そして挫折などを間近で見てきた人物でもある。


既定路線を貫いたブレない姿勢

リーマン・ショックを乗り切り、そしてその後に躍進していった人材ビジネス会社とはどういう会社だったのか?浜田氏にまずはそこから聞いてみたい。

「リーマン・ショックを乗り切り、その後の人材ビジネス業界で大きな躍進を遂げていった企業の取り組み、戦略などを振り返ってみると、いわゆる業界大手と呼ばれる企業と、中堅・中小企業とでは、方向性がかなり異なっていたように感じました。

業界大手と中堅・中小、いずれも売上が3割、4割と落ち込む中で、どのようにリーマン・ショックの危機と向き合い、その荒波を乗り越えていったのか。当時、営業現場の最前線で私が体感、または見聞した記憶を呼び起こしつつ、そのあたりから振り返ってみたいと思います。

まずは年間売上ランキングで上位50位に入るような業界大手企業の場合ですが、リーマン・ショック以前からM&Aも含めた拡大路線による事業戦略を推進していたところが多かったわけです。そこにリーマン・ショックが来ました。当時の様子は今でもよく覚えていますが、事業売上が3割、4割と落ち込むほどのダメージを受けたところも少なくありませんでした。

ただ、売上が3割、4割と落ち込む厳しい経営環境にありながらも、それまでの拡大路線は変えない。むしろリーマン・ショック後にグループからの事業撤退の動きを見せた資本系の派遣会社を買収し、さらに規模を拡張していく派遣会社もありました。

当時の人材ビジネス業界を取り巻く需給情勢からすれば、例えば派遣事業の規模縮小という経営戦略の見直しもやむなしというムードはあったと思われますが、それでも既定の拡大路線を変えない。そうした大手が多く存在しました。

あの厳しい状況にあっても、拡大路線という戦略を貫く。リーマン・ショックを乗り越え、さらにその後の飛躍の踏み台にもしたという意味では、大きな危機に遭遇しても、大きな軸としての経営方針は変えない。その強い意志、ブレないスタンスというのは、コロナショックにおいても今、同じく問われているテーマなのかもしれないですね。もちろん、これは大きな危機に耐えるだけの体力がある業界大手だからこそ取り得る戦略であったとは思います」

得意分野に経営資源を集中してみる

それに対して中堅・中小の人材ビジネス会社の対応はどうだったのか。浜田氏は続ける。

「中堅・中小においては、大手とは対照的に各地の営業所の閉鎖、あるいは拠点縮小を余儀なくされたところが多かったと思います。中にはそのタイミングで人材派遣事業や人材紹介事業から撤退した企業も少なくありませんから、ここでいう規模の縮小とは、中堅・中小にとっては生き残りのため、リーマン・ショックを乗り切るための前向きな経営戦略でもあったともいえます。

そうした中堅・中小の中で、リーマン・ショックを乗り切り、その後の人材ビジネス業界で大きな躍進を遂げていったケースとしては、同じ縮小路線でも戦力の一極集中を推し進めていったところが挙げられると思います。

つまりその会社が得意とする分野に経営資源を集中した会社です。それはある業種や職種に特化するケースもあれば、あるエリアに注力したケース、さらに特定の人材層に特化しつつ、派遣先の事情を考慮しながらサービスの領域を拡大していったところもありました。

具体例としては、リーマン・ショック以降は人員削減を打ち出す国内企業が増加し、例えばフルタイムでの派遣スタッフの受け入れは難しいという派遣先もかなり増えた時期があります。

そのタイミングに波に乗り、派遣先からの高い需要を獲得していったのが、例えば短時間就労の主婦派遣などです。フルタイムでの派遣スタッフの需要は減っていたものの、『ならば今、必要としている時間帯だけ、派遣スタッフを効果的に活用しませんか?』という提案型の営業で、むしろ新たな需要を開拓していった中堅・中小もありました。

大手と同じような路線ではなく、全体的な事業ボリュームが減っていく中で、自分たちの得意分野をもう一回、このタイミングで練り直し、創造してみようと。それによって難局を乗り越え、経営を立て直していった中堅・中小の人材ビジネス会社も、リーマン・ショックの後にはかなり増えた印象があります」

経費削減の中のチャレンジ

経済危機に直面して売上が落ち込むと、どうしても経費の見直しを余儀なくされるというのは、企業経営として致し方ないところ。リーマン・ショックのときも、そうした経費削減ムードの中にあって「守りに入るところとそうでないところに大別される傾向はありました」と浜田氏は振り返る。

「人材派遣の場合、経費の多くを占めるのが派遣スタッフの募集広告です。いくら売上が減少しているとはいっても、派遣スタッフがいなくてはビジネスにはなりませんから、募集を止めるわけにはいかない。

そうした中でやはり攻めのスタンスを失わず、オウンドメディア、つまり自社ウェブサイトによって派遣スタッフを募集するという新たな手法にチャレンジしていったところも増えました。

現在のコロナショックでもそうかもしれませんが、現実には危機的な状況にはあるものの、なかなか画一的なやり方から抜け出せない。一歩を踏み出せないという会社も多いとは思います。ただ、先ほどの得意分野への経営資源の集中やオウンドメディアの取り組みのように、リーマン・ショックのような大変な時期だからこそあえて取り組んでみよう。そしてそのための提案力を高めようという行動力は、今のタイミングにおいても学ぶべきポイントではないか、という気はしています」

今こそ社内で活発な議論を

人材派遣会社での実務、コンサルティング会社での派遣会社経営支援を経て、現職。立ち位置を変えながらも派遣業界に25年以上関わり、支援を続けている

〝あえてこのタイミングだから取り組む、そして提案力を高める〟というリーマン・ショックの教訓を今のコロナショックにもあてはめるとすれば、例えば人材派遣事業においてどんな取り組みが想定されるのか。浜田氏は「派遣スタッフのテレワーク」において、そうした提案力が今こそ求められているのではないか、と予測している。

「コロナショックによって国内でテレワークが定着しつつあります。人材派遣においてもテレワーク派遣といったニーズの掘り起しに向けた動きも出てきてはいます。

ただ、クライアントである派遣先の受け止め方は、まだまだ派遣スタッフによるテレワーク就労には違和感といいますか、納得感は十分に得られていない状況にはあります。

特に最近ではフリーランス市場が活況であり、フリーランサーが在宅で業務を受注するケースも増えています。同じ在宅ということなら、費用が安く、業務も出来高制のフリーランサーのほうがいいという企業も多いとなると、テレワークで派遣スタッフを活用するメリットとは何なのか?おそらくそうした疑問がクライアントである派遣先には芽生えるはずです。

そうした場面においても、やはり派遣会社の提案力がとても重要になります。

その提案力とは、例えばテレワークの課題の一つに在宅勤務中の社員のマネジメントがなかなか難しいという点が挙げられます。特に今回のコロナショックを機に初めてテレワークを導入したような企業の場合、モニター画面越しではなく、直にマネジメントができないことに対して不安を抱くところも、現時点においては決して少なくないように思われます。

派遣スタッフのテレワークを推進するにあたっては、派遣先が不安に感じるマネジメントなどのフォローを派遣会社がしっかり担っていく点がポイントになります。そうした提案をし、先ほどのフリーランサーのテレワークより費用は割高ではあっても、それに見合うだけのフォローを派遣会社が担うことで、派遣先に納得感を持っていただく。テレワーク派遣のような働き方が今後、一定の割合で定着していくためには、そうした発想と提案が必要なのではないかと感じています。

リーマン・ショックを乗り越え、その後の人材ビジネス業界で大きな躍進を遂げていった企業のように、今回のコロナショックを乗り越え、今後の人材ビジネス業界で大きな躍進を遂げていくためには、そうした発想と提案を生むための土壌となる議論の場も大切です。外からの情報収集と同時に、そうした議論も社内で活発に行っていく。それこそテレワークのウェブ会議でもいいと思います。今はそれを行動に移すにはとてもいいタイミングだと思いますね」


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この記事は、株式会社オーピーエヌ発行の「月刊人材ビジネス」2020年6月号の一部記事を抜粋、転載して構成されています。

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