昇給・賞与・退職金の有無の書き方について解説

2020年4月の労働者派遣法改正により、雇用契約締結時に昇給・賞与・退職金の有無を明示することになりました。実際、書面に明示する際に「このケースは“有り”と明示して良いのか?」等、書き方について迷うことがあると思います。今回は、色々なケースに触れながら昇給・賞与・退職金、それぞれの有無の決め方、明示方法について詳しく解説します。

◎基本的な考え方◎
当該労働者自身の労働条件(有期労働契約であれば、当該労働契約期間における労働条件)を 明示することが求められています。

【1】「昇給」は注意が必要!

よく勘違いが起こりやすいのですが、「昇給」は契約期間中の賃金の“増額”を指します。
契約更新時の“賃金改定”は「昇給」のように見えますが、実は「昇給」ではありません。

よって、契約期間中の賃金の“増額”が行われない場合は「昇給無し」と明示します。
ただし、契約更新時に“賃金改定”による実質上の「昇給」の可能性がある場合は、
その旨を加えておくことが望ましいとされているため、
「昇給無し 契約更新時に改定することがある」と記載します。

例)
・「昇給無し」→ 契約期間中の賃金の“増額”無し/契約更新時の際に行われる“賃金改定”も無し
・「昇給有り」→ 契約期間中の賃金の“増額”が必ず有り
・「昇給無し 契約更新時に改定することがある」
→ 契約期間中の賃金の“増額”無し/契約更新時“賃金改定”の可能性有り

【2】「退職金」ポイントは支給対象要件を満たす可能性があるか

自社や派遣先に退職金制度がある場合でも、労働契約期間内に支給対象要件を満たさないため支給されない場合は、「退職金無し」と明示します。
例)「勤続3年以上の者に支給する」退職金制度のため、1年間契約の労働者には退職金は支給されない。

ただし、雇用継続の可能性があり、契約更新により退職金の支給対象となる可能性がある場合、
制度は「有」とした上で、「業績により不支給の場合あり」や「勤続○年未満は不支給」など
支給されない可能性があることを記載してください。

例)
・「退職金無し」→ 退職金制度がそもそも無い/労働契約期間内に支給対象要件を満たさない(勤続○年未満)
・「退職金有り」→ 退職金が必ず支払われる
・「退職金有り 業績により不支給の場合あり 勤続○年未満は不支給」
→ 雇用継続の可能性があり、退職金の支給対象となる可能性がある場合

【3】「賞与」ポイントは契約期間中に賞与支給日が到来するか

厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし」※では、有期労働契約の「賞与の有無の明示」について示されていません。 しかし、昇給・退職金の明示方法と同様であるならば、 まず、契約期間中に賞与支給日が到来するか否かで判断します。

また、雇用継続の可能性があり、契約更新されることで賞与支給日が到来して支給される場合、
「賞与有 業績、勤務評価により不支給の場合あり」と明示することは、退職金の明示同様に差し支えないと考えられます。

例)
・「賞与無し」→ 賞与がそもそも無い/労働契約期間内に賞与支給日が到来しない
・「賞与有り」→ 賞与が必ず支払われる
・「賞与有り 業績、勤務評価により不支給の場合あり」
→ 雇用継続の可能性があり、賞与支給日が到来して支給される可能性がある場合

【4】賞与、退職金が時給に含まれる場合の書き方は?

賞与・退職金を時給に含めている場合、どちらも「無し」と明示します。
「含めて支給する」は、賞与や退職金として現実に支給されるものではないことから、「有り」と明示することはできません。

ただし、「時給に退職金・賞与の相当額が含まれる」等の明示をして、退職金制度・賞与支給は無いが、相当額を支払っていることを示し、賞与・退職金について考慮されていないという誤解を招かないよう工夫をする必要があります。

派遣労働者の同一労働同一賃金における「昇給・賞与・退職金」 の明示義務は、パート・有期労働法を基に制定されており、厚生労働省資料(4ページ、5ページ)に解説されています。

厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001119510.pdf


ユアサイド中宮

解説者

社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員

社会保険労務士 中宮 伸二郎

立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。

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