こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
3度目の労働者派遣法の労使協定方式の労使協定を締結しなければならない時期となりました。派遣社員の待遇決定については、他社がどのようにしているのか気になるところです。
2020年12月24日に行われた労働政策審議会で、労働者派遣事業報告書のサンプル調査の結果が公表されました。今回は、調査結果の概要をお知らせいたします。
元となる資料:
厚生労働省 労働者派遣事業報告書に添付される労使協定書の賃金等の 記載状況について(一部事業所の集計結果(令和3年度))
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000872465.pdf
※この記事は 2022年2月4日時点の情報を元に解説しています。
目次
【1】選択している待遇決定方式
待遇決定方式は、約9割が労使協定方式です。2020年10月14日の労働政策審議会で公表された2020年6月提出の労働者派遣事業報告書のサンプル調査でも同程度の割合であることから、改正法施行時に選択した待遇決定方式を変更せず継続している企業が多いようです。また、)「労使協定方式」及び「併用」を選択している事業所のうち、一般賃金を据え置く例外的取り扱いを使用した事業所は、全体の4%となっています。
【2】地域指数の選択状況
都道府県別の選択が約8割を占めます。「その他」は、「地域指数は別表のとおりとする」等の記載はあるが、別表の提出がなかった事業所などが含まれるそうです。ハローワーク単位の選択が少ない理由として、同一都道府県内の複数の地域が通勤圏内となることから、ハローワーク単位で細分化した場合、賃金が低く設定される地域での求人に苦戦することになるため、都道府県単位を選択したことが考えられます。
【3】通勤手当の支給状況
9割近くが実費支給を選択しています。ただし、実費支給のうち、支給上限が定められているものの割合は公表されていません。時給に通勤手当を含めて支給するものは、「合算により支給」に分類されています。
有期雇用派遣社員の場合、パート有期法により、派遣元内勤社員との均等・均衡待遇が求められます。派遣元内勤社員が、通勤費実費支給に対し、有期雇用派遣社員の通勤手当を時給に含めるのであれば、その待遇差が不合理ではないと説明できなければなりませんが、一般的に説明困難であることから、実費支給が圧倒的に多くなったものと考えられます。また、実費支給の方が採用に有利という事情もあると思われます。
【4】退職金の支給状況
退職金制度を設けるか前払いとするかで、時給の設定が大きく異なることから派遣会社が頭を悩ませるところですが、前払い方式が優勢なようです。この結果を見て、「よし!ウチも前払い方式に変更しよう!」と思った企業もあるかもしれませんが、一度作った退職金制度を廃止する場合は、一般的に労働条件の不利益変更となるため、慎重に対応してください。
【5】能力経験調整指数の選択状況
0年を選択する企業が多いことは想定の範囲内ですが、10年が2番目に多く選択されています。また、0年に対応する賃金の下限額も公表されており、これによると賃金テーブルの設定は、下限額を一般賃金と同額としていることが多いようです。例えば、中分類25一般事務員の基準値(0年)1,041円に対し、中央値1,045円となっています。ただし、これは下限額であり、実際に支給されている時給ではありません。多くの場合、「〇〇円以上」と表記して、それ以上の賃金を支払っていることが多いです。
0.3% | 0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | 0.5年 | 21年以上 | その他 |
選択の割合 (N=297) | 94.5% | 35.4% | 88.2% | 29.6% | 49.1% | 77.7% | 17.5% | 4.8% | 0.3% | 8.6% |
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。