こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
2022年度4月1日から適用される一般賃金に関する局長通達が公表されました。また、2021年の最低賃金は全国平均28円と過去最高の上げ幅となる見込みです。今回は、最低賃金引き上げが労使協定方式に与える影響と2022年度一般賃金に関して解説します。
※この記事は 2021年8月12日時点の情報を元に解説しています。
目次
2022年度 一般賃金の指数
◎ 賞与指数:変更なし 0.02
◎ 能力経験調整指数:変更あり
1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | |
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2022年 | 114.3 | 123.9 | 128.8 | 134.5 | 151.1 | 188.6 |
2021年 | 116.8 | 125.4 | 129.5 | 136.8 | 157.4 | 196.8 |
◎ 一般通勤手当:変更あり 71円(2021年74円)
◎ 退職金割合 :変更なし 6%
◎ 退職手当調査:
中小企業の賃金・退職金事情(東京都)を更新
退職手当制度がある企業の割合 65.9%(2021年71.3%)
退職手当の受給に必要な所要年数 3年が最多(変更なし)
退職手当の支給月数 減少
例:勤続3年自己都合退職 1.0(2021年1.1)
一般賃金の引き下げに合わせて、派遣社員の賃金を引き下げは可能か?
2022年度の一般賃金(基本給・賞与)は、昨年同様、ほとんどの職種で引き上げられていますが、飲食・旅行業界に関連する職種は、新型コロナウイルスの影響から引き下げられています。
一般賃金が引き下げられると、派遣社員の時給は自動的に下がるでしょうか。継続して同じ業務に従事する派遣社員の賃金を引き下げることは、一般的に不可能です。「労使協定方式に関するQ&A【第3集】」問1‐1で次のように回答しております。
非正規雇用労働者の待遇改善という同一労働同一賃金の趣旨及び派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理の実施という労使協定方式の目的にかんがみて、一般賃金の額が下がったことをもって、協定対象派遣労働者の待遇を引き下げる対応は望ましくなく、見直し前の労使協定に定める協定対象派遣労働者の賃金の額を基礎として、協定対象派遣労働者の公正な待遇の確保について労使で十分に議論することが望まれるものである。
「労使協定方式に関するQ&A【第3集】」問1‐1
労使で十分に議論すれば引き下げの余地があるようにも解釈できますが、労使協定の記載事項である「職務内容等の向上があった場合の賃金の改善」として、同じ職務内容であったとしても勤務評価の結果を反映して昇給すると定めていると思います。
勤務評価が著しく悪ければ賃金引き下げの可能性もありますが、標準的な評価の場合、昇給することはあっても引き下げることはないと考えられます。そのため、賃金を引き下げた場合、派遣法で定める公正な評価に基づく昇給が実施できていないと判断される恐れがあります。また、一般賃金の引き下げだけを理由に一方的に賃金を引き下げることは労働条件の不利益変更となることからも引き下げは困難といえます。
中小企業の賃金・退職金事情(東京都)と退職金規程
今回の中小企業の賃金・退職金事情(東京都)の更新では、退職金制度がある企業割合、退職手当支給月数ともに減少したことにより、一般退職金の勤続年数別係数が引き下げられますが、既に制定している退職金規程を変更して、退職金の額を減額することは労働条件の不利益変更となります。
2021年度 中小企業の賃金・退職金事情(東京都)大卒に基づく支給月数
※退職金有の企業割合 71.3% 退職手当の受給に必要な所要年数 3年
3年 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 33年 | |
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自己都合 | 0.8 | 1.4 | 3.1 | 5.3 | 7.6 | 10.6 | 13.3 | 15.3 |
会社都合 | 1.2 | 1.9 | 4.1 | 6.5 | 8.9 | 11.8 | 14.5 | 16.6 |
2022年度 中小企業の賃金・退職金事情(東京都)大卒に基づく支給月数
※ 退職金有の企業割合 65.9% 退職手当の受給に必要な所要年数 3年
3年 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 33年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
自己都合 | 0.7 | 1.1 | 2.7 | 4.5 | 6.7 | 8.9 | 11.1 | 12.5 |
会社都合 | 1 | 1.6 | 3.6 | 5.6 | 8 | 10.1 | 12.3 | 13.6 |
最低賃金引き上げと2021年一般賃金の補正
最低賃金が中央労働政策審議会の答申どおり28円上がった場合、2021年度の労使協定の再締結が必要となる場合があります。東京都で賃金構造基本統計調査を使用している場合、7つの職種で一般賃金が最低賃金を下回ります。例外的取扱いを活用し、2020年度の一般賃金に据え置いている場合はさらに該当職種が増えます。最低賃金は、その地域で絶対に守らなければならない最低基準であることから、例外的取扱いを適用している場合であっても賃金の引き上げが必要となります。
また、基準値(0年)×地域指数が、最低賃金を下回った場合は、基準値(0年)×地域指数を最低賃金とし、能力経験調整指数を乗じて算出します。労使協定の内容が変更になってしまうことから、最低賃金の発効にあわせて労使協定を締結し直す必要があります。
例:神奈川県の最低賃金が1,040円になった場合
地域指数1.091 職業安定業務統計小分類「371看護助手」
0年 | 1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | |
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現行 | 1,013 | 1,183 | 1,270 | 1,312 | 1,386 | 1,594 | 1,993 |
引上げ後 | 1,040 | 1,215 | 1,304 | 1,347 | 1,423 | 1,637 | 2,047 |
単位(円)
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。