こんにちは、社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
2024年10月から地域別最低賃金が引き上げられました。
全ての都道府県で50円以上引き上げられ、昭和53年に目安制度が始まって以降、最高額の引き上げとなりました。
今回は、最低賃金引き上げの注意点について解説します。
※この記事は 2024年9月30日時点の情報を元に解説しています。
目次
派遣と最低賃金
派遣社員の最低賃金は、派遣先の事業所所在地により決定されます。
例えば、派遣元が東京都で、派遣先が埼玉県の場合。埼玉県の最低賃金が適用されます。
令和6年度の地域別最低賃金は、厚生労働省から公開されています。
労使協定方式が適用されている場合、
賃金統計をもとに算出された、一般賃金以上の賃金を派遣社員に支払わなければなりません。
現在使用している2024年度の一般賃金は、2年前の2022年度の統計に基づくため、昨年・今年の最低賃金の引き上げが反映されておりません。
今年度の最低賃金引き上げにより、賃金改定を行わないと一部の職種が最低賃金未満の賃金となってしまいます。最低賃金を下回ることは許されないため、一般賃金が最低賃金未満となる職種については、労使協定の再締結が必要となります。
また、労使協定の再締結の結果、必要に応じて派遣社員の時給も最低賃金の改定にあわせて引き上げなければなりません。2年前に最低賃金が引き上げられたときの記事がありますので、労使協定を再締結する際は参考になさってください。
みなし残業手当と最低賃金
みなし残業代は、残業手当の先払いなので最低賃金との比較に含まれない賃金です。
そのため、最低賃金以上の賃金を支払っているかどうかは、みなし残業代を含まない金額と比較しなければなりません。
みなし残業代を含む大阪府企業の違法となる計算例
①20万円÷160時間=1,250円
①の時給単価1,250円は、みなし残業手当を含めて算出した結果、最低賃金以上となります。
しかし、これは誤った比較です。みなし残業代は除いた金額で比較する必要があります。
②(20万円―3万円)÷160時間=1,062円
みなし残業代(3万円)を除いて算出した1,062円が計算としては正しくなりますが、
大阪府の最低賃金1,114円を下回るため違法となります。
月収8.8万円/週20時間以上働いている場合の社会保険
令和6年10月から社会保険の加入基準が拡大されました。
従業員50人以上の企業では、
・週所労働時間20時間以上
・月収8.8万円以上
上記の2点を満たす方は社会保険に加入させなければなりません。
現在、配偶者の被扶養者としてパートで働いている方が、上記の基準を満たしている場合、
社会保険に加入させなければならなくなります。
パート本人が、社会保険加入を拒むのであれば、時給を引き下げて月収8.8万円未満とするか、労働時間を週20時間未満に減らすかどちらかしかありません。
しかし、時給の引き下げは、最低賃金が定められていることから制限が課されています。
改訂前と後の兵庫県企業の計算例
改定前1,001円×86.6時間=86,686円
8万8千未満のため、社会保険非適用となります。
改定後1,052円×86.6時間=91,103円
週20時間労働は月換算で86.6時間ほどになるため、兵庫県の最低賃金で働いた場合、8万8千円を超えます。従業員50人以上の企業であれば、社会保険の加入は必須となります。
最低賃金は、全国加重平均1,500円の早期達成を目指して、今後も大幅引き上げが予想されます。
毎年上がることを前提に対応を検討してください。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。