こんにちは、社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
労使間の賃金未払い紛争で問題になることの一つに制服などの着替えに要する時間の取扱いがあります。
裁判例の多くは着替え時間を労働時間と認めて、その時間の賃金支払いを命じています。
今回は、制服などへの着替え時間の取扱いについて解説します。
※この記事は 2024年10月28日時点の情報を元に解説しています。
目次
労働時間とは
労働時間は、「労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。
最高裁判決(三菱重工長崎造船所事件)では、作業服の着替えについて、次のように判断しています。
引用:裁判例結果詳細 裁判要旨
労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当する。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52572
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan(参照 2024-10-29)
この判例から、次の場合は、着替え時間が労働時間となる可能性が極めて高いです。
・就業規則等で制服着用を義務付けている
・制服の着用ルールに従わない場合に罰則が設けられている
・安全面や衛生面から着替えを必要としている
・会社が着替え場所を指定している(通勤時に制服の着用を禁止)
労働時間にカウントされる時間とは
食品製造工場など衛生上の観点から着替え、手洗いが義務付けられている場合は労働時間になります。
安全衛生上、必須ではない業務でも着用を義務付け、会社の更衣室で着替えることを指示している場合も労働時間になります。
一方、制服がなく、個人の都合で着替えている場合、労働時間にはなりません。
また、着用を義務付けていたとしても、通勤時に制服の着用が認められている場合、着替え時間は労働時間に該当しません。
着替えだけではなく、会社の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。始業前の朝礼や業務の準備行為などは労働時間となります。
また、労働時間の終了も片付け、清掃など、業務上指示された作業を終えた時刻が終業時刻となります。
着替え時間のカウント方法
着替え時間を労働時間としてカウントする方法は、2種類あります。
- 着替え前に始業の打刻をし、着替え後に終業の打刻をする
- 一律●分間を着替え時間として加算する(勤怠打刻は、始業時は着替え後、終業時は着替え前に行う)
①の方法は、最も適切な方法です。しかし、通勤に何を着てくるかによって個人差が生じます。これにより労働者間に不公平感が生まれたり、意図的に必要以上の時間をかけたりする可能性も否定できません。また、タイムレコーダーを更衣室に置かなければ、正確に把握できないという問題もあります。
②の方法は、イケア・ジャパンが採用しています。
着替え時間を1回につき一律5分、出勤時と退勤時で合計10分を労働時間に含めることにしているそうです。他にも大手飲食チェーンでも同様に1日10分を着替え時間として労働時間に含める事例があります。
着替え時間を一律で加算する場合の注意点
ここで注意しなければならないことは、着替え時間が必ずしも5分とは限らないことです。製造業で保護具の装着がある場合は、5分以上着替え時間が必要かもしれません。
着替え時間を一律●分とする場合は、現状の着替え時間を計測し、労働者の納得できる時間とする必要があります。
派遣社員の場合、派遣先の方針によって取扱いが決まるところですが、着替え時間が労働時間と認定されたときに未払い賃金を支払うのは派遣元です。派遣先にも近年の着替え時間の取扱いに関する動きをご理解いただき、適切な取り扱いをするようお願いしてください。
着替え時間の賃金を派遣先に求める場合、エビデンスがあると交渉しやすいです。
たとえば、勤怠管理システムを導入し、着替え前に出勤打刻、着替え後に退勤打刻を行った場合、実労働時間に着替え時間がプラスされた時刻がデータとして記録されます。
これにより、従業員の証言だけで着替え時間を把握するよりも、より客観的なデータとして着替え時間を算出できるようになります。
勤怠管理システムの構築による必要時間の把握
勤怠管理システムe-naviタイムシートは、オンラインで勤怠を集計するシステムで、出退勤した時間を把握するのに役立ちます。
打刻した時間を丸める設定にした場合でも、出勤した時刻そのものは記録として残るので、着替え時間の把握をしたい場合に役立つはずです。
派遣管理システムの導入を検討される際は、ユニテックシステムにご相談ください。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。