こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
昨年に続き、都道府県労働局の指導が活発に行われています。
全ての帳票類を点検する、従来通りの方法だけでなく、労使協定方式を採用している派遣会社の、労使協定の内容を点検する指導も登場しました。
今回は、私がこの1年間で経験したよくある是正指導例をご紹介します。
※この記事は 2022年7月4日時点の情報を元に解説しています。
目次
労使協定に関する指摘事項
一般賃金の端数処理
労使協定の別表を作成の際、表計算ソフトの端数処理で指摘の多い事例です。
「退職金相当(6%)を基本給に含める方式」を採用している派遣会社で良く起きる誤りです。四捨五入や、切り上げ処理のタイミングを間違えた結果1円のズレが起きます。
労使協定の昇給に関する記載表現
労使協定の昇給に関する事項を、曖昧に記載することは避けましょう。
労使協定には、職務内容等の向上があった場合の対応について規定しなければなりません。
厚生労働省の「労使協定方式」における点検・検討手順には、
「派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に、
通勤手当等を除く職務の内容に密接に関連して支払われる賃金が改善されること」とされています。
引用:第4部「労使協定方式」における点検・検討手順
派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に、通勤手当等を除く職務の内容に密接に関連して支払われる賃金が改善されること
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000501270.pdf
厚生労働省(参照 2022-07-05)
派遣スタッフの職務内容等の向上があった場合。
「昇給」もしくは、「より高度な業務に係る派遣就業機会の提供」による対応が求められます。
労使協定に「昇給することがある」等の曖昧な記載はできません。昇給の対応の場合、職務内容等の向上が認められるのであれば、昇給しなくてはなりません。
また、昇給のための勤務評価については、公正に評価することとされています。これを明らかにするため、労使協定の評価方法の条項に「公正に評価する」旨記載することが望ましいと考えられます。
比較対象労働者に関する情報提供に関する指摘事項
労使協定方式であっても、
抵触日通知同様、派遣個別契約締結の前に比較対象労働者の情報を、派遣先から提供していただかなければなりません。個別契約締結の都度、毎回、派遣先から提供してもらう必要があります。
以下は待遇に関する情報提供(労使協定方式に限定する場合)の記載例です。
情報提供事項は、
- 食堂・休憩室
- 更衣室等福利厚生施設
- 派遣先が実施する教育訓練
に限られます。
派遣契約を締結するより先に、派遣先から比較対象労働者の情報を提出してもらう必要があります。
派遣先からの派遣就業実績の通知に関する指摘事項
派遣先から派遣会社に毎月1回、就業状況(勤怠)が通知されます。
その際、以下の事項の通知も義務付けられています。
派遣先の通知事項
- 派遣社員の氏名
- 派遣就業をした日、派遣就業をした日ごとの始業、終業時刻、休憩した時間
- 従事した業務の種類
- 派遣社員が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣社員が労働に従事した事業所の名称、所在地、組織単位
以上の項目の、「派遣社員が従事する業務に伴う責任の程度」と「休憩した時間」の記載漏れをよく目にします。
これらのミスは、一般的な企業向けの勤怠システム等を利用している派遣会社で良く起こります。
氏名、始業・就業時刻以外の項目がないので、その点に注意しなければなりません。
派遣専用の勤怠管理システムなら、上記項目をすべて網羅した作りになっているので、導入を検討してみてもいいかもしれません。
不適切な点があれば自主的に改善し、適切な事業運営を心がけましょう。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。