新型コロナウイルスの影響により、派遣社員の休業要請や、派遣契約の更新なしを 派遣先から伝えられるなど派遣社員に休業手当を支給しなければならないケースが増えてきました。
今回は、派遣社員にも適用される雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症特例措置)について詳しく解説します。※ 2020年5月12日時点の情報を元に解説しています。
目次
【1】「雇用調整助成金」とは何ですか?
雇用調整助成金とは、自然災害、風評被害、交通手段の途絶など、あらゆる理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用調整(休業/教育訓練/出向などの措置)を行った場合、その費用の一部を政府が助成する制度です。
助成金を支給することにより、従業員の雇止めや解雇を防ぐことを目的としています。
今回の特例措置は、新型コロナウイルスの影響に伴う事業活動縮小により、事業主が休業手当を支給して従業員を休ませた場合に、その費用の一部を政府が負担するものです。
【2】コロナウイルスの影響を受けるすべての企業が対象となりますか?
いいえ、雇用調整助成金は、一定規模以上の休業を実施した企業が対象です。 具体的には以下の通りです。
休業規模
<中小企業> 1/40(2.5%)
<大企業> 1/30(3.3%)
特例措置の休業規模の計算は、事業所単位で見て、
[1] 雇用保険被保険者のみ[2] 雇用保険被保険者以外の者(所定労働時間20時間未満の者)のみ
[3] [1]と[2]の合算 [1] ~[3]いずれかの休業延べ日数を、
対象労働者の所定労働日数で割ります。 [1] の計算例
<被保険者100人 月所定労働日数20日>の事業所で
▽そのうち▽
<20人が10日休業>
100人×20日=2000人日(所定労働日数)
20人×10日=200人日(休業延べ日数)
200÷2,000=10%(休業規模)
10%の休業規模であれば、
中小企業1/40(2.5%)、大企業1/30(3.3%)いずれにも当てはまります。
【3】改正派遣法のために派遣料金を値上げした結果、4月の前年同月比が低下していない場合は申請できないですか?
4月1日以降の休業は、前年同月比で5%以上の売り上げ減少していることが原則ですが、これを満たせない場合、前前年同月比と比較することも認められています。 さらにそれでも要件を満たさない場合は、比較対象となる月の11ヶ月のいずれかの月と比較して5%以上低下してれば要件を満たしているものとして雇用調整助成金を申請できます。
2020年5月に申請する場合
▼原則 2020年4月と2019年4月を比較
▼例外1 2020年4月と2018年4月を比較
▼例外2 2020年4月と2019年5月~2020年3月いずれかの月を比較
【4】すべての派遣社員が対象となりますか?
はい、すべての派遣社員が対象となります。
雇用保険に加入していない週20時間未満の派遣社員を含めて有期雇用・無期雇用を問わず対象となります。
また、雇用期間が極端に短い場合でも対象となります。
例えば、新卒派遣で4月1日就業開始を予定し、雇用契約を締結したところ、
派遣先からキャンセルされてしまった場合のように1日も派遣就業していなかった場合も対象となります。
【5】休業手当として支払った額の9割が助成されますか?
いいえ、ケースにより異なります。
休業手当の助成率は以下となります。
▼(2020年1月24日以降に)解雇を行っていない場合
<中小企業> 助成率9/10
※諸条件を満たせば10/10支給されるケースもあります。 5月1日 厚生労働省発表
<大企業> 助成率 3/4
▼(2020年1月24日以降に)解雇を行った場合
<中小企業> 助成率 4/5
<大企業> 助成率 2/3
解雇等には、有期雇用者について「解雇とみなされる雇止め」を行った場合も含まれています。
助成額の算定は、個々の労働者に支払った休業手当から支給額を算出するのではなく、
直近の労働保険概算・確定申告書に基づき雇用保険被保険者1人平均日額により算定し、上限も8,330円とされています。 以上のことから、必ずしも支払った額の9割が助成されるものではありません。
【6】正社員と派遣社員で休業手当の支給率を変えても良いですか。
均等均衡待遇の観点から、正社員と派遣社員に不合理な待遇差を設けることはできません。
しかし、不合理ではないと説明できるのであれば、異なる支給率としても差し支えありません。
例えば、正社員は休業手当率100%、派遣社員は60%とすることも可能です。
ただし、雇用調整助成金では、同一事業所で2種類以上の休業手当率を定めている場合、
最も低い率を用いて助成額を算定します。
上記例では、正社員も含めて休業手当率60%の事業所として扱われます。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。