
派遣会社の皆様へ
厚生労働省指定派遣元責任者講習講師、法務と実務に強い派遣特化型の
社会保険労務士、みなとみらい人事コンサルティング代表の泉文美(いずみ あやみ)と申します。
今回もよろしくお願いいたします。 今回も、すべての派遣会社が定期的に行わなければならない、派遣許可事業の更新手続きについて解説します。
※この記事は 2026年10月21日時点の情報を元に解説しています。
目次
ポイント1 派遣許可更新申請に必要な「資産要件」を年度決算で満たせないとき
前回のコラムで、派遣許可更新申請期限と、いつの決算関係の書類を提出するか、そして「資産要件」についてお伝えしました。
もう皆さんはいつまでに次回の派遣許可更新申請を、いつの期の「資産要件」をクリアした決算書の資料を添付して行わなくてはならないのか、分かっていますね。
前回のコラムで触れた通り、派遣許可更新はただ申請書を作成し、定められた添付書類とともに提出すればいいのではありません。
許可更新にあたっては「資産要件」というものを必ずクリアしなければなりません。
どれだけ申請書類がきちんと整っていても、派遣許可を更新することはできません。
では、会社の経営状況等やむを得ない事情により、どうしても「資産要件」を満たせない場合は、どうすればいいのか?
前回のコラムで説明した通り、次期の決算書で何とか資産要件をクリアし、新規許可申請を行うほかに、例外的な処置があります。
こんなことにならないのがもちろん一番です。
しかし、万一の時に備え、知っておくと後で役に立つかもしれません。
例外的な処置
たとえば、
・派遣許可の有効期間満了:令和9年2月末
・更新申請期限:令和8年11月末
・会社の決算:3月末
という会社があったとします。
この会社が、更新に使用する年度決算で資産要件を満たしていなかった場合、
通常であれば、
令和9年3月末決算で何とか要件を満たし、その後に決算書を作成して、新規許可申請を行うことになります。
しかし、もう一つ「月次決算または中間決算を行って資産要件をクリアし、公認会計士の監査証明を受けたうえで、申請期限までに更新申請を行う」
という例外的な方法があります。
ポイント2 例外的処置で資産要件をクリアする際の注意点その1~単月か半年か~
まず、「月次」もしくは「中間」決算である、ということです!
四半期等、任意の期で設定できませんので注意しましょう。
先ほどの
・令和9年2月末に許可期間満了
・令和8年11月末が更新申請期限
・3月末決算
という会社の例の場合
中間決算の場合
令和8年度の中間決算ならば令和8年10月末締めになります。
手続きに要する時間を考えると、令和8年11月末申請期限には間に合いそうにありませんね。
月次決算の場合
では月次となった場合。
申請時直近で書類を提出できる、という条件下で決算作成から監査証明を受けるまでの時期(数カ月以上かかることも)を考慮し、何月の単月決算かを判断します。
先ほどの例の3月末決算の会社の場合は、
令和7年度(令和8年3月末締め)年次決算で満たせなかったのですから、令和8年度開始の4月~8月末締めぐらいの間で適切な単月、ということになります。
実際にこの処置を行う際は税理士、公認会計士、そして労働局の派遣許可更新申請担当者にもくれぐれも会社の状況を正確に伝えて、何月決算が最もよいか決定してくださいね。
ここで、月次あるいは中間決算を使用する場合でも資産要件は通常の年度決算の際と全く変わらない、ということが最重要ポイントです!
「単月だから純資産要件も12分の1でいい」ということにはなりません。
「半年分の中間決算だから、現預金要件も半分でいい」ということにもなりません。
通常と同じ資産要件を、そのまま満たす必要があります。
つまり、年度決算で満たせなかった資産要件を、月次決算や中間決算という短い期間の中で満たさなければならないわけです。
そう考えると、むしろ通常の年度決算よりも大変、ということにもなりますよね。
ポイント3 例外的処置で資産要件をクリアする際の注意点その2~公認会計士の監査証明~
仮に、月次決算または中間決算で資産要件をクリアできたとしても、それだけでは更新申請に使用することはできません。次のステップが待っています。
月次・中間決算自体は会社で行っても構いませんが、必ず公認会計士の監査証明が必要になるのです!
そしてこれはあまり知られていない事実ですが、この例外的処置を行うにあたっての大前提として、通常の年度決算とそれに伴う税申告を、必ず税理士が行っていなければなりません!
先ほどの例の3月末決算の会社の場合は、 令和7年度(令和8年3月末締め)年次決算で資産要件を満たせなかったとしても、決算処理と税申告を税理士が行っている必要があるのです!
なぜ私があまり知られていないこの事実を知っているのか…?
実は、派遣特化型の社会保険労務士として、実際に似たケースを経験したことがあるからです。
前回のコラムでは、顧問先ではない会社から、申請期限ぎりぎりになって派遣許可更新申請の手続きだけを依頼されることもある、というお話をしました。
今回は、そのときに実際にあったケースをご紹介します。
申請期限ぎりぎりに派遣許可更新手続きをする例
守秘義務がありますから、ここでは仮にA社としておきましょう。
A社はとても小規模な会社で、派遣労働者も少なく、派遣先も数社のみ。
派遣労働者の仕事内容や働き方もほぼ同じで、経理処理もそれほど複雑ではありませんでした。
売上もそれほど大きくなかったことから、少しでも経費を抑えようと社長自身が長年、決算処理から税務申告まで行っていました。
そんなA社から、派遣許可更新の時期になって、
「さすがに更新申請まで一人で行うのは大変なので、社労士に代行してほしい」
とご依頼をいただきました。
そこで私が該当年度の決算書を見たところ、小さい会社だからなのか現預金要件1,500万を満たしていなかったのです!
社長は、それまで何もかも一人で対応していました。
初回の派遣許可申請時には資産要件をきちんと確認してクリアしていたものの、更新申請で提出する決算書についても同じように要件を満たさなければならないことを、すっかり失念してしまっていました。
そして、それを指摘してくれる人もいなかったのです。
純資産の要件は何とか満たしていたため、
「現預金を増やしてもらえれば例外的処置を使って更新申請できるかもしれない」
と考え、A社を管轄する県の労働局需給調整事業課へ問い合わせました。
そこで会社の状況を説明したところ、担当者から確認されたのが、
「そもそも、年度決算や税務申告を税理士に依頼していないのですか?」
という点でした。
私が、
「はい。これまで一度も税理士には依頼せず、社長ご自身で行っていたそうです」
と答えたところ、
「それでは、そもそも月次決算や中間決算で行うこともできません」
という回答だったのです。
私自身もそのとき初めて知り、とても驚きました。
このコラムを読んでいる派遣会社さんでは、「税理士にまったく依頼していない」というケースは多くないかもしれません。
それでも、このような例が実際にありますので、万が一に備えて確認しておいてください。
話を戻しましょう。 月次あるいは中間決算を行う際は、まずは顧問税理士に頼むのが良いでしょう。
そのうえで、公認会計士の監査証明を受けます。
ここで重要なのは「税理士」ではなく「公認会計士」だということです。
両者は異なる資格ですので顧問税理士が公認会計士の資格も有している、とは限りません。
また、仮に顧問税理士が公認会計士の資格を有していたとしても、自分で月次あるいは中間決算を行って、自分で監査証明をするのでしたら監査の意味がありませんね。
結局、監査証明を行ってくれる公認会計士を探さなければならないことになります。
そして、ここでもう一つ大切なことがあります。
公認会計士であれば、誰でも簡単に監査証明を出してくれるわけではありません。
私もこれまで、派遣特化型社労士として、この例外的な方法を数社で利用したことがあります。
その際には、提携していた公認会計士の先生に監査証明を依頼しました。
その先生から言われた言葉を、今でも覚えています。
「泉先生、この監査証明って、とても重要な手続きなんです。私たちも資格をかけてやるんですよ。 書類をちょいちょい書けば何とかなる、という話じゃないんですよ。
『年次決算で、派遣許可更新要件満たせなかったから、よろしく~』みたいな、軽いノリで依頼されたらこちらも困りますよ。」
結局、私も3社依頼されて、監査証明できたのは2社。
(1社は監査証明できない決算内容だと断られました)
また、監査証明まで行うことができた会社でも、その当時、月次決算の作成から監査証明までで約90万円の追加費用がかかったそうです。
その会社は、本来であれば資産要件を十分にクリアできる財務状況でした。
ところが、たまたま派遣許可更新に使用する年度決算の年に自社ビルを建てたため、その年だけ一時的に資産要件を満たせなくなってしまったのです。
会社の方から、
「泉先生と、更新直前ではなく、もっと数年前に出会いたかった…」
と言われ、
私も、「私も本当にそう思います…」とお答えするしかありませんでした。
当事務所にも提携している公認会計士がいますし、現在では、派遣許可更新の監査証明に対応している公認会計士をインターネットで探すこともできます。
ただし、この方法を検討する場合は、少なくとも次の点を理解しておきましょう。
①まずは税理士に毎年の決算処理と税申告を頼んでいること
②顧問税理士とは関係ない立場での公認会計士に依頼すること
③いくら優秀な公認会計士でも会社の財務状況、決算書の内容によってはどうしようもないこと
④年次の決算とは別に、月次あるいは中間決算にかかる費用、公認会計士の監査証明にかかる費用が追加で発生し、決して低額ではないこと
(どこの公認会計士の監査証明でも、1~2万ということはないはずです!)
こうした点を理解したうえで、あくまでこの方法は例外的な最終手段と考えてください。
やはり原則は、前回のコラムでお伝えしたとおり、通常の年度決算の段階で資産要件を満たしておくことです。
更新直前になって慌てることがないよう、社内でもこの点を共通認識として徹底しておきましょう。
お疲れさまでした!
派遣許可更新申請に使用する決算期が始まる前に、ぜひもう一度このコラムを読み返して、お役立てくださいね。
次回も引き続き、派遣許可更新申請手続きについて解説していきます。
お楽しみに!
さいごに
当事務所では派遣許可更新申請に関する相談もいつでも受け付けています。
監査証明を利用した派遣許可更新申請にも対応しており、
必要に応じて提携する公認会計士をご紹介することも可能です。
何かありましたら、まずは下記、当事務所HPのお問い合わせフォームから質問してくださいね。
初回相談は無料です。

解説者
みなとみらい人事コンサルティング 代表
泉 文美(いずみ あやみ)
横浜生まれ。2005年東京大学卒業。
ハローワーク、労働基準監督署、労働局、厚生労働省勤務経験有。
2012年社会保険労務士事務所開業。
開業当初より厚生労働省指定「派遣元・派遣先・職業紹介責任者講習」講師を務める。派遣・紹介関係の顧問先多数。講演・著述の依頼もこなす。
法務と実務両面に強い、派遣・紹介特化型社労士として、役所での勤務経験も活かし、「役所対応に強い社労士」として定評がある。









