こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
2024年4月1日から労働契約を締結するときに明示しなければならない項目が追加されます。
今回は、全ての労働者が対象となる労働条件通知の追加事項である「変更の範囲」について解説します。
※この記事は 2023年12月26日時点の情報を元に解説しています。
目次
労働条件の明示とは
労働契約は、口頭の約束でも成立しますが、それだけでは労使の行き違いから「言った」「言わない」のトラブルになってしまう可能性があります。
そのようなトラブルを防止するため、労働基準法第15条で労働契約を締結する際には、その労働条件を明示することが義務付けられています。
明示項目は、必ず明示しなければならない事項と労働条件として定める場合には記載しなければならない事項に分かれています。
さらに必ず明示しなければならない項目は、「昇給に関する事項」を除き、書面等で交付することと定められています。交付の方法は、書面に限らず、労働者が希望すれば電子メールの送信などの方法も認められています。
労働契約締結の都度、労働条件を明示しなければならないとされていることから、労働契約の更新の際もその都度明示が必要となります。
派遣会社では、労働契約締結と同時に派遣就業を開始することから、労働条件の明示と労働者派遣法の就業条件明示を一つの書式で交付しているケースが多いです。
スタッフナビゲーターの「雇用契約書(兼)就業条件明示書」が、労働基準法の労働条件明示に該当します。
2024年4月から追加される項目
改正により追加される項目は以下のとおりです。
「変更の範囲」の記載方法
派遣管理システム スタッフナビゲーターで実装予定の雇用契約書
労働条件通知書に、新たな項目「変更の範囲」を記載する必要があります。
これは、将来の配置転換などで、変わり得る就業場所や業務の範囲を示すものです。
有期雇用の場合
有期雇用契約期間中の変更の範囲を明示します。2か月契約であれば、その2か月間の就業場所、業務内容の変更の範囲を明示します。
契約期間中の異動が想定されていない場合、変更の範囲は就業場所、業務内容ともに「変更なし」となります。なお、臨時的な異動は含まれないとされていることから、派遣契約中途解約に伴い派遣先が変更になることを想定して変更の範囲を定める必要はありません。
有期雇用契約期間中に異動が想定される場合の明示は、無期雇用と同じ内容になります。
無期雇用の場合
無期雇用派遣社員は、定年退職まで雇用が継続することが予想されます。長い雇用期間の間に、何度かの異動を経験することになるかと思います。そのため、想定される異動範囲に応じて変更の範囲を明示する必要があります。
労働条件通知書への記載例
就業場所の変更範囲の記載例
転勤の範囲が限定されている場合
「神奈川県内」「大阪市内」「東京本社及び名古屋支店」など
転勤の範囲が無限定(制限なし)の場合
「会社の定める場所」「本店および全ての支店、営業所」など
業務内容の変更範囲の記載例
変更の範囲があらかじめ限定されている場合
「施設・交通警備等の警備業務」「商品または営業の企画業務」
変更の範囲が無限定の場合
「会社の定める業務」「全ての業務に配置転換あり」
無期雇用、無限定の場合、「会社が定める業務」のように曖昧な記載にせざるを得ないこともありますが、トラブル防止のため、できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にするとともに、労使間でコミュニケーションをとり、認識を共有することが重要とされています。
なお、異動の範囲を明示していても労働者同意の上、その範囲を超えて異動させることは可能です。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。