ダブルワークの労働時間管理

こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。

働き方改革の一環として副業・兼業を認める企業が増加傾向にあります。人手不足による求人難から「ダブルワーク歓迎」の求人も見られるようになりました。

ダブルワークの場合、後から労働契約を締結した企業に割増賃金支払義務が生じることは良く知られています。それに加えて、割増賃金だけではなく「36協定」や「月間の労働時間上限」も適切に管理しなければなりません。今回は、ダブルワークにおける労働時間にのみフォーカスを当てて解説をします。

※この記事は 2022年2月28日時点の情報を元に解説しています。

労働時間の上限についておさらい

上の図は36協定と特別条項を締結した場合の労働時間の上限を表しています。
(1年単位の変形労働時間制を除く)

ダブルワークで時間外労働【通算45時間】を超えて働いても問題ないか

36協定の時間管理では、異なる勤務先間で時間外労働は通算しません。
つまり時間外労働の上限、勤務先Aと勤務先Bを通算して45時間を超えて働いていたとしても、それぞれの勤務先で超えていなければ問題にはなりません。

下の図に、「勤務先Aでフルタイム勤務+時間外労働を30時間。さらに勤務先Bで副業を20時間した場合」の例を用意しました。
どちらの勤務先も36協定を結んでいて、勤務先Bは後から労働契約をしたとします。

勤務先Aでフルタイム勤務する者が、勤務先Bを副業として勤務した場合

この例だと、勤務先Aですでに法定労働時間の勤務をしています。そのため、勤務先Bの労働時間は全て時間外労働となります。

勤務先Aの時間外労働と、勤務先Bの勤務時間を通算すると30時間+20時間=50時間。36協定で定められている、時間外労働の上限である月45時間を超過してしまいます。しかし時間外労働は、それぞれの勤務先の36協定内で順守されれば問題ありません。

法定労働時間は、1日8時間・週40時間。時間外労働(残業時間)は月45時間・年360時間が上限となります。月/年で基準が設けられていますが、どちらの上限も上回ってはならないので注意が必要です。

くわえて「月平均80時間」の問題があります。例えば、各勤務先で40時間を超える残業した場合、80時間を超過し平均80時間以内の範疇を超え、法律違反となります。

※後述する、特別条項を締結しない場合。

時間外労働が36協定の範囲内であっても注意

特別条項について

先ほど法定労働時間は、1日8時間・週40時間。時間外労働(残業時間)は月45時間・年360時間が上限とお伝えしましたが、特別条項という例外があります。

例えば、1ヶ月35時間の時間外労働を行うと、35時間×12ヶ月=420時間となり、年間の上限をこえてしまいます。
しかし、特別条項を締結しているのであれば、年間の上限が720時間まで引き上げることができます。その場合であっても、月に45時間を超えての時間外労働ができるのは、年に6ヶ月までです。

通算した時間外労働の限界とは

先ほど、「時間外労働は、それぞれの勤務先の36協定内で順守されれば問題ありません」と述べましたが、時間外労働を通算しなければならない場合があります。

時間外・休日労働は複数の勤務先を通算して、1か月100時間未満・複数月平均80時間以下としなければなりません。

例えば、勤務先Aで時間外労働60時間、勤務先Bで時間外労働40時間働いた場合。それぞれの事業所の36協定・特別条項の範囲内ですが、通算100時間は問題になります。たとえ、36協定・特別条項を締結していたとしても、時間外労働は通算して100時間を下回らなければならないからです。加えて、月平均の時間外労働が80時間以下になるようにしなければなりません。

後から労働契約を結んだ勤務先の義務

通算のルールとして「時間外労働 通算月100時間未満」「月平均の時間外労働(80時間以下)」に違反しないよう守らなければなりません。

これらの上限規制の義務を負うのは、一般的に後から労働契約を結ぶ勤務先になります。時間外労働の通算をしようと思っても、労働者が他の勤務先で働いているかどうかは、自己申告に頼らざるを得ません。

副業先として、派遣会社が選ばれることが多いことから、「ダブルワークの残業代をもらっていない」という請求も増えています。派遣会社はスタッフを採用する際に、厚生労働省のお勧めする管理モデルを活用するなどして、他の勤務先の勤務時間や時間外労働を把握するように注意してください。

引用:副業・兼業|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
厚生労働省(参照 2022-03-09)

他の勤務先の休日・休憩時間を把握する必要はない

法定休日・休憩時間は、勤務先間で通算する必要がありません。

(1)法定休日

おのおのの勤務先で休日を与えていれば問題ありません。

例えば、勤務先Aで平日5日勤務する者が、土日に勤務先Bで副業をする場合。週に1日も休みがない状態になります。しかし、勤務先Aは土日に休日を与え、勤務先Bは平日に休日を与えている為に違反にはなりません。

(2)休憩時間

同じ日に2つ以上の勤務先で働く場合、まったく休憩がないとしても問題にならない場合があります。

例えば、勤務先Aで5時間働いた後に、勤務先Bで5時間働く場合。勤務先Aから勤務先Bの労働の間に休憩がないとしても問題にはなりません。ただし、どちらかの勤務先で6時間以上働く場合には、その勤務先に休憩を与える義務が生じます。

注)本稿は、分かりやすい説明のために長時間労働に耐えられる心身ともに強靭な労働者がいることを前提に執筆しております。厚生労働省は、副業・兼業を行う者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、それぞれの事業場において適切な措置を実施することができるよう労使で話し合うことが適当であるとしています。


ユアサイド中宮

解説者

社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員

社会保険労務士 中宮 伸二郎

立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。

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