派遣社員と労災保険

こんにちは、社会保険労務士の中宮 伸二郎です。

労災保険は労働者が仕事中や通勤途中にけがをしたり、病気になったり、死亡した場合に、治療費や休業補償などを補償するための保険です。派遣社員が受けられる給付は、その他の労働者と同じですが、手続きが若干異なる点があります。

今回は、派遣社員の労災保険について解説します。

なびー
派遣社員が仕事中にけがをした場合、労災保険は使えますか?
中宮先生
もちろん使えます。
労働者を1人でも雇う事業主には、労災保険への加入が義務付けられていて、派遣社員も給付を受けることができます。

※この記事は 2025年4月30日時点の情報を元に解説しています。

業務上災害と通勤災害

労災保険の対象となる事故は、業務上災害と通勤災害に分けられます。

業務上災害は、仕事中や仕事のための行動中にケガや病気になった場合です。
業務との関係がない場合は認められないため、休憩時間中の私的行為による事故は、労災保険の対象にはなりません。

通勤災害は、住居と就業場所の間を合理的な経路・方法で移動している間にけがや病気になった場合です。1日に2か所で勤務するダブルワーカーが、勤務先に移動することも通勤になります。

派遣社員の場合の手続

派遣社員が事故にあった場合、派遣先での通勤・事故であっても、派遣元の労災保険が適用されます。

そのため、派遣元では事故の発生を把握することができません。
事故が発生した場合は、派遣先から派遣元にいつ・どこで・何をしているときに事故が発生したか連絡してもらわなければなりません。

連絡を受けた内容をもとに派遣元は、「療養補償給付たる療養の給付請求書」(5号様式)等労災保険の請求に必要な書類を作成します。

派遣社員の労災保険請求の際は、請求書の派遣先事業主証明欄に派遣先の証明を受ける必要あります。
直接雇用労働者の場合、この欄は空欄としますが、派遣社員の場合は派遣先に記入してもらわなければなりません。

労災保険手続の流れ

  1. 事故の発生を派遣社員から派遣先に報告
  2. 派遣社員は、医療機関で治療を受ける
    派遣先は派遣元に事故の詳細を連絡する
  3. 派遣元は、労災保険の請求書を作成
    「療養補償給付たる療養の給付請求書」(5号様式)等を作成。
    労災保険給付請求書に派遣先の証明欄を記入してもらい、医療機関に提出。
  4. 業務上災害により休業する場合や治療を受ける医療機関を変更する場合等、必要な文書を派遣元が作成します。

死傷病報告書の提出

発生した労災で休業が生じた際には、派遣先企業・派遣元ともに「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなければなりません。

派遣先は、派遣先事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
派遣先が提出した「労働者死傷病報告」のコピーを派遣元に送付してもらい、派遣元は同じ内容で派遣元事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。

死傷病報告書の提出を怠った場合、「労災隠し」として労働安全衛生法違反を問われるとになるので提出忘れがないように注意が必要です。

厚労省リーフレット「派遣労働者にかかる労働者死傷病報告の提出について」より作成


ユアサイド中宮

解説者

社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員

社会保険労務士 中宮 伸二郎

立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。

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