こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
社会保険に加入している企業は、概ね3~4年に1回程度、年金事務所の調査があります。
年金事務所の調査の目的は、大きく分けて2つあります。一つは社会保険に加入すべき社員が漏れなく加入していることを確認すること。もう一つは、加入者の報酬が正しく届けられていることを確認することです。
今回は、年金事務所の調査について解説します。
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※この記事は 2023年8月31日時点の情報を元に解説しています。
目次
年金事務所の調査時に提出する書類
年金事務所の調査は、加入状況・報酬を確認するための書類を提出します。
賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、雇用契約書、源泉所得税の領収証、その他年金事務所が指定するもの
調査の目的が「短時間労働者の社会保険適用拡大に限定されている場合」は、社会保険非加入者だけの提出となることがあります。
また、規模の大きな会社は、提出書類が膨大な量になることから、年金事務所が提出範囲を指定することがあります。しかし、原則として雇用する全ての従業員の資料の提出は必要です。提出書類は、社会保険の適用に関する時効が2年とされていることから、過去2年分の資料を用意する必要があります。
加入漏れについて
社会保険に加入していない者について、労働時間・労働日数・雇用契約の状況を確認します。
雇用契約上、加入要件を満たしていなくても、時間外労働が多ければ加入要件を満たしていると判断され、加入の手続きを行うよう指導されます。加入漏れについては、遡って加入手続きしなければならないことがあります。
報酬の届出
社会保険料は、給与月額を一定の幅で区分した報酬月額により決定します。
毎月の支給額に応じて保険料を計算することはせず、会社が届け出た金額を等級ごとに区分して毎月同額の保険料が決定されます。
例えば、月額が、19万5千円から21万円未満であれば、健康保険17級に区分され、月額20万円とみなして保険料を算出されます。
3種類のタイミングで報酬の届出を行う必要があります。それぞれの届出が適切であったか、賃金台帳から確認されます。
- 加入の際
- 毎年7月(定時改定)
- 昇給など臨時の給与変動(随時改定)
それぞれのタイミングで、注意すべきことは以下です。
1.加入の際
加入の際に時間外労働が多いにもかかわらず、それを一切考慮せず、基本給のみで報酬を届けていた場合、加入時に遡って報酬の訂正が求められます。
2.毎年7月(定時改定)
定時改定は、4月・5月・6月の報酬額を届け出るものです。届出と賃金台帳が一致していることを確認しましょう。
3.昇給など臨時の給与変動(随時改定)
随時改定は、指摘の多い事項です。
昇給や月次の諸手当が変更した際に届け出なければならないのですが、変動幅が小さい場合は届け出が不要であることから見落とされがちです。
通勤手当も社会保険料の対象となることから、転居により交通費が変更された場合でも対象となることがあります。
「賞与」に注意
近年の年金事務所の調査では、賞与に関する指摘が非常に多いです。
社会保険では、賞与を次のように定義しています。
「賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他いかなる名称であるかを問わず、被保険者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のもの」
一般的に夏・冬・決算時に支給される一時金を賞与と呼びますが、
社会保険の賞与は、より広範囲の賃金を賞与として取り扱います。
普段支給しない手当が支給された場合、賞与として保険料を控除して、年金事務所に賞与支払届を提出しなければなりません。
まとめ
加入漏れ、報酬届出誤り、賞与未届け、全ての場合で追加の社会保険料が発生します。調査によって生じた社会保険料は、一括で請求されます。日常の管理がずさんな場合、数百万円の追加の社会保険料を一括で支払うことになります。社会保険の加入、報酬の届出は、日ごろの適正管理が必要です。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。