こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
採用の場面で「扶養の範囲内」という言葉がしばしば使われます。一定の収入があるかどうかで、所得税と社会保険で範囲が異なります。さらに社会保険の扶養の範囲は、2022年10月移行の社会保険の適用拡大に伴う思わぬ落とし穴もあります。
今回は、所得税と社会保険の扶養の範囲について解説します。
※この記事は 2023年7月11日時点の情報を元に解説しています。
目次
なぜ、扶養の範囲内にこだわるの
収入が増えて所得税の控除が受けられなくなってしまうと、扶養している配偶者や親の所得税が増加します。また、一定の条件(年収や労働時間など)を満たすと、扶養に入っていても社会保険に加入しなくてはならなくなります。
配偶者や親が家族手当のある企業に勤めている場合、収入が増えることで、家族手当が支給されなくなってしまう場合があるので、気にする必要があります。
家族手当とは、各企業が独自に定めている福利厚生の手当です。
労働基準法に定められたものではないので、家族手当が設定されていない企業もあります。
2022年民間給与実態調査によると何らかの家族手当を支給している企業の割合は、75.3%となっています。そのうち、84.1%の企業が、家族手当支給条件に配偶者の収入制限を設けています。
収入制限は、所得税に由来する103万円、社会保険に由来する130万円に集中しています。その結果、103万円もしくは130万円を上限とする働き方を希望する方が多いことになりました。
これが、いわゆる「年収103万円の壁」「年収130万円の壁」と呼ばれるものの正体です。
年収の壁(103・130万円)を超えて所得税や社会保険の条件を満たしたりしないよう、上限を超えないような働き方を希望する人が多くなっているのです。
各年収で直面する、所得税・社会保険に関する年収の壁
扶養に入っている労働者の年収は、103・106・130・150万円で所得税、あるいは社会保険に関する問題に直面します。
各年収の壁で考慮しなければいけないことは以下です。
所得税の「扶養の範囲」
①103万円の壁
配偶者、子といった立場に関係なく給与収入年103万円以下であれば、本人に所得税は生じません。
超えてしまうと、本人に所得税が生じる他、配偶者以外の家族の場合、扶養控除の対象外となり、扶養している者の所得税が増額されます。
具体的には、16歳以上の子の年収が103万円以下であれば、扶養している親は、扶養控除を受けることができます。103万円を超えたら扶養控除を受けることができません。
②150万円の壁
配偶者には、他の家族と異なり、配偶者控除があります。
扶養している配偶者の給与収入が103万円を超えた場合であっても150万円までは、配偶者特別控除により配偶者控除と同額の控除を受けることができます。
例えば「労働者Aが配偶者Bを扶養している場合」、被扶養配偶者である配偶者Bの年収が103万円を超えたら、配偶者Bに所得税が生じます。ただし、配偶者Bの収入が150万円までは、労働者Aが受ける控除は変わらず、所得税も同じです。配偶者特別控除で得られる金額は、150万円の給与収入に対する所得税より大きいことが多いため、150万円の壁と呼ばれています。
社会保険の「扶養の範囲」
③130万円の壁
健康保険の扶養になると健康保険料の負担がありません。
配偶者の場合、健康保険の扶養であれば、国民年金の保険料を負担しなくてもよい第3号被保険者になります。扶養になるための条件は、年収130万円未満であることです。
④106万円の壁
年収が130万円未満でも社会保険の扶養になることができない場合があります。
従業員100人以上の企業で週20時間以上働く場合。年収106万円(正しくは、月額8万8千円)以上で、社会保険に加入しなければなりません。130万円未満で扶養になれる条件より、年収106万円以上で社会保険に加入することが優先されます。なお、週20時間勤務で月額8万8千円未満となる時給は、1,015円です。
社会保険の適用拡大後の加入要件(2022年10月~)
2022年10月から、健康保険・厚生年金保険の適用範囲が変わっています。
労働者が、短時間しか働かない方であったとしても、企業規模が大きい場合、社会保険に加入させなければならない場合があります。
詳しくは以前の記事で取り上げているのでこちらをご参照ください。
まとめ
扶養の範囲内で働くことを希望された場合、到達する年収によって、社会保険や所得税の手続きが必要になります。調整したい場合は、週の労働時間に気をつかう必要があるでしょう。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。