こんにちは。社会保険労務士の中宮 伸二郎です。
企業には、社員に健康診断を受診させることが義務づけられています(労働安全衛生法)。
派遣会社でも実施していると思いますが、その実施方法は各社で様々です。
健康診断の受診のさせ方で、同一労働同一賃金に反していると判断される場合があります。
今回は、派遣社員の健康診断と同一労働同一賃金の関係について解説します。
同一労働同一賃金は、賃金以外の待遇についても検討する必要があります。
※この記事は 2023年5月31日時点の情報を元に解説しています。
目次
一般健康診断と特殊健康診断とは
企業が行う健康診断は、一般健康診断と特殊健康診断があります。
一般健康診断
一般健康診断は、
「雇入れ時健康診断」と「定期健康診断」、「特定業務健康診断」の3種類があります。
雇入れ時健康診断
採用決定後に実施します。
有期雇用で1年以上使用見込みがない場合、実施義務はありません。
定期健康診断
毎年1回、定期に実施します。
有期雇用であっても、対象者の条件を満たす場合、実施しなければなりません。
特定業務健康診断
深夜業など省令で定める業務に従事する場合、6か月ごとに1回、定期健康診断と同じ項目の健康診断を実施しなければなりません。
特殊健康診断
特殊健康診断は、法令で定める有害業務に従事する者に対し、実施されなければなりません。
有害業務に従事する派遣社員を派遣している場合、派遣元が実施させることになります。
有害業務とは、作業方法や作業環境の管理が適切に行われないと労働者の健康に影響を与えるおそれのある業務のことです。
健康診断を受診する対象者
健康保険の受診義務対象者は、「常時使用する労働者」です。
雇入れ時健康診断・定期健康診断の「常時使用する労働者」とは、次の条件を満たす者です。
同一労働同一賃金から見た健康診断の待遇差
一般健康診断は、企業に実施義務があるため、実施費用は企業が全額を負担しなければなりません。
乳がん検診など、法定外の項目を本人の希望により実施する場合、その追加費用を自己負担とすることは可能です。
例外的に本人負担になるパターンとして、派遣社員が、企業が用意した健康診断を拒否し、自身のかかりつけ医等での健康診断の受診を希望した場合です。
この場合、実施費用を企業側が負担する必要はありません。
健康診断を実施する時間に対する賃金を支払う義務はありません。
実際、健康診断に時給を支払っていない企業は少なくなく、また、健康診断の受信日を年休・休日に当てなければならないようにしている企業も多く見られます。
しかし、この取り扱いは「同一労働同一賃金」の観点から問題があります。
派遣元の内勤社員は勤務時間内に受診でき、派遣社員は年休・休日に受診しなければならない理由を、従事する職種や立場の違いを理由とすることは、不合理な待遇差と判断される可能性が高いと言えます。
「同一労働同一賃金ガイドライン」では、労使協定方式により待遇を決定している場合、派遣元の内勤社員と同一の勤務免除と有給の保障を行わなければならないとしています。
健康診断時間の賃金取り扱い
派遣社員が健康診断を受診する日を有給とする派遣会社もあります。
可能であれば、派遣先の健康診断を一緒に受けられるようにしてもらいましょう。
所定労働時間中に受診させたり、所定休日に受診する場合は、派遣元の内勤社員と待遇合わせるために、別途健康診断手当を支給しましょう。
まとめ
2022年から労働基準監督官の臨検時に「同一労働同一賃金」に関する情報の収集が始まっています。
同一労働同一賃金に反していると判断された場合は、労働者派遣法に基づく行政指導が行われることになっております。
この機会に派遣社員の健康診断実施方法を見直してはいかがでしょうか。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。