“過半数労働者の選出が適正に行なわれていない”という理由で、都道府県労働局の定期指導監督において代表選出のやり直しを指導されることがあります。先日、労使協定を締結する際の労働者の過半数代表者の選出方法について、労働局より注意喚起がなされました。今回は、労働者の過半数代表者選出に関するQ&Aです。
※この記事は 2020年12月3日時点の情報を元に解説しています。
目次
【1】“過半数代表者”の選出はなぜ必要?
労働条件に関する規制は、割増賃金率のように法令で基準を定めるほか、その内容を労使協議により決定するというものもあります。労使協議の結果を文書に残したものが労使協定と呼ばれるものです。労使協議を行うにあたって、事業所の過半数を組織する労働組合があれば、労働組合と協議することになりますが、過半数を組織する労働組合がない場合は、事業所の労働者の過半数を代表する者と協議しなければなりません。
例えば、時間外・休日労働は、そもそも原則禁止であり、例外的に行わせたとしても月間100時間未満でなければならないと労基法で制限されています。例外的な取り扱いをするために上限100時間の範囲で時間外・休日労働可能な範囲を労使で協議し、協定を締結しています。派遣法の労使協定方式の労使協定は、一般賃金以上の条件で、どのような労働条件とするかを労使で協議し決定するものです。
過半数代表者は、労働条件決定にかかわることから、適切な過半数代表者の選出が必須となります。
【2】“過半数代表者”の要件は?
過半数代表者は、次の2つの要件を満たした者でなければなりません。
- 管理監督の地位にある者でないこと(いわゆる管理職は過半数代表者になれません)
- 過半数代表者の選出理由を明らかにして投票、挙手等の方法により選出された者であること(企業の意向に基づき選出された者ではないこと)
【3】“過半数代表者”選出の方法は?
1.立候補者を募集する
過半数代表者の立候補者を募集します。
(派遣社員に限定されず、内勤社員等の立候補も可)
立候補者がいない場合は、推薦を受けた者を立候補者とすることも可能です。ただし、企業が“指名”した者を立候補者とすることはできません。あくまで、“推薦”という点にご留意ください。
2.選出する
○立候補者がひとりの場合⇒信任投票等
○立候補者が複数の場合⇒選挙
→1回の投票等で過半数を得られない場合、決選投票を実施したり、得票数1位の者の信任投票を実施する等により過半数の信任を得る。
過半数代表者の選出方法として、投票、挙手以外にも労働者による話し合いや持ち回り決議といった方法も認められています。派遣会社では、過半数の労働者が一堂に会する機会があるとは思えないため、挙手による選出ができる派遣会社は限られます。同様に派遣社員を含めて話し合いの場を設けること、回覧文書に信任・不信任を記載させる持ち回り決議も実施が難しいと思われます。そのため、投票により選出せざるを得ません。メールやSNSを利用し投票してもらうことが多いようです。
コピペして自由に利用OK!
▽派遣社員へ投票を呼び掛ける際の案内例文
派遣社員の皆様へ
株式会社〇〇〇
総務部
労働者代表の選出について
先般通知した労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定締結手続きに関する労働者代表立候補者の募集に対し、下記の方が立候補されていますのでご通知致します。
立候補者:〇〇 〇〇 (雇用区分:有期契約派遣社員)
上記立候補者の信任・不信任に関する投票を20XX年〇月〇日から〇日までの間に、下記のメールアドレス宛にお願い致します。20XX年〇月〇日時点在籍者の過半数の信任を得られた場合、上記の立候補者が労働者代表として信任されることになります。
≪投票送信先・担当者≫
xxx@xxxx.xx.xx
総務部 担当:XX TEL **-***-****
期日までに投票がなかった場合、担当営業より直接ご連絡することがあります。その際には、信任または不信任どちらかの意見をお答えください。
これはNG!やってはいけない選出方法とは?
【NGケース①】回答がない派遣社員の票を「信任」として扱う
派遣会社から投票を呼びかけても多くの派遣社員から返信がないことから、やむを得ず「返事がなければ信任とする」もしくは「不信任の場合だけ、投票してください」という取り扱いをする事例が多く見られました。その為、今般、そのような取り扱いは不適切であるとし、回答がなかった場合、電話や訪問等により、直接意見を確認する等の措置を講じなければならないとされました。
メールの返信がない、Webアンケートの回答がない場合は、過半数代表者の適格性を確保するため、回答のないすべて派遣社員に対しての電話や訪問等による意見の確認を確認すべきです。電話や対面での確認を行った場合は、確認日時と意見の内容を記録してください。
【NGケース②】全体ではなく“回答のあった労働者”の過半数の信任を得ることで過半数代表者とする
分母を回答のあった労働者とすることはできません。「労働者の過半数を代表する者」は、労使協定を締結する単位に所属するすべての労働者の過半数の信任を得なければなりません。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。