目次
【1】「派遣先均等均衡方式」と「労使協定方式」両方の制度を併用することは可能?
はい、可能です。「労使協定方式」の労使協定には、協定の対象となる派遣社員の範囲を定めることとされています。言い換えれば、労使協定で対象派遣社員とされなかった者については、「派遣先均等均衡方式」を適用することになります。つまり、ひとつの派遣元において「派遣先均等均衡方式」と「労使協定方式」両方の制度を適用することが可能です。※併用する場合は、【3】労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を定める際に気を付ける点3つをご覧ください。
【2】「労使協定方式」を選択しているのに、派遣先の希望等で個別に「派遣先均等均衡方式」に変更して良いか?
「労使協定方式に関するQ&A【第2集】」の設問を例に解説します。
【問1‐3】
Q.労使協定を締結する際に協定対象労働者の範囲を定めることとなっているが、派遣先の希望等により、
個別に、協定対象派遣労働者の待遇決定方式を派遣先均等・均衡方式に変更することとしてもよいか?
A.適当ではない。(NGです)
引用 ──────────────────────────────────
厚生労働省 2019年11月1日公表「労使協定方式に関するQ&A【第2集】」
https://www.mhlw.go.jp/content/rk2.pdf
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《解説》回答は、労使協定制度の趣旨に反するため「適当ではない」とされています。同時に待遇引き下げを目的として派遣先ごとに待遇決定方式を変更することは、改正労働者派遣法の趣旨に反するものであり適当ではないとしています。派遣先が「派遣先均等均衡方式を希望する場合」とは、自社の賃金水準が一般賃金を下回る場合が多いであろうと予想されることから、派遣先の要望に応じて協定対象派遣社員を「派遣先均等均衡方式」に変更することはできないと考えられます。
【問1‐3】では、変更できないことを前提としつつ「 一方、待遇決定方式を変更しなければ派遣労働者が希望する就業機会を提供できない場合であって、当該派遣労働者から合意を得た場合等のやむを得ないと認められる事情がある場合などは、この限りでない。」としています。
「希望する就業機会を提供できないやむを得ないと認められる事情」について、
具体例は示されておりませんが、単に派遣先が「派遣先均等均衡方式」を希望している
というだけでは該当しないと考えられます。
【3】労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を定める際に気を付ける点3つ
労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を定める際には、
以下3つの注意点があります。
◎職種や労働契約期間(有期、無期)などといった“客観的な基準”を元に
労使協定の対象となる派遣労働者を定めます。
《労使協定対象者の区分例》
区分 | 例 |
---|---|
職種 | 職業分類の中分類ごとに協定対象とするか否かを決める |
労働契約期間 | 有期雇用と無期雇用で協定対象とするか否かを決める |
紹介予定派遣 | 紹介予定派遣の場合だけ協定対象から除外する |
事業所 | A事業所では労使協定を締結し、B事業所では労使協定を締結しない |
◎(客観的な基準であったとしても)、“労使協定の対象となる派遣労働者”の範囲を
「賃金水準が高い企業に派遣する労働者」とすることは、
「労使協定方式」を設けた趣旨に照らし、適当ではないとされています。
◎上記の区分例であっても問題が生じる可能性はあり、労使協定から除外する(もしくは対象とする)理由について“労使で協議した上で決定する”というプロセスが重要となります。
解説者
社会保険労務士法人 ユアサイド
代表社員
社会保険労務士 中宮 伸二郎
立教大学法学部卒業後、流通大手企業に就職。2000年社会保険労務士試験合格し、2007年社会保険労務士法人ユアサイド設立。8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として様々な業種の労務問題にかかわる。有期雇用、派遣社員に関する実務に詳しく、2007年より派遣元責任者講習の講師を務める。